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人生朝露

人生朝露

列子の人造人間は蝶の夢をみるか?

荘子です。
前回の続き。

参照:荘子の造化とラプラスの悪魔。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5087/

『荘子』の造化つながりで、今日は『列子』に飛びます。中島敦の『名人伝』の元ネタとなった飛衛の話の前に、「造化」という単語が出てきます。

参照:当ブログ 中島敦「名人伝」と荘子。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5014

列子(列禦寇  Li?z?)。
『周穆王西巡狩,越昆倉,不至?山。反還,未及中國,道有獻工人名偃師,穆王薦之,問曰:“若有何能?”偃師曰“臣唯命所試。然臣已有所造,愿王先觀之。”穆王曰“日以?來,吾與若?觀之。”翌日,偃師謁見王。王薦之曰:“若與偕來者何人耶?”對曰“臣之所造能倡者。”穆王驚視之,趨?俯仰,信人也。巧夫,?其頤,則歌合律。捧其手,則舞應節。千變萬化,惟意所適。王以為實人也。與盛??御并觀之。技將終,倡者瞬其目而招王之左右待妾。王大怒,立欲誅偃師。偃師大懾,立剖散倡者以示王,皆傅會革、木、膠、漆、白、黒、丹、青之所為。王諦料之,?則肝、膽、心、肺、脾、腎、腸、胃,外則筋骨、支節、、皮毛、齒發,皆假也,而無不畢具者。合會復如初見。王試廢其心,則口不能言;廢其肝,則目不能視;廢其腎,則足不能?。穆王始悦而嘆曰“人之巧乃可與造化者同功乎?”詔貳車載之以歸。夫班輸之云梯,墨?之飛鳶,自謂能之極也。弟子東門賈、禽滑釐,聞偃師之巧,以告二子,二子終身不敢語藝,而時執規矩。』(『列子』湯問 第五)
→周の穆王が西へ巡幸されたときのこと。越の昆倉やエン山に至って、再び元の道を辿り中国へ戻る途上、偃師(えんし)という工人が自らを売り込みにやって来た。穆王は彼に「お主には何ができる?」と質問すると偃師は「王様のご用命ならば、何でもお受けいたします。まずは、私が造りました物を王様にご覧いただきたく思います。」と言い、穆王も「では日を改めて、お主と共にそれを見せてもらうこととしよう。」という運びとなった。
 翌日、偃師は穆王に拝謁し、王は偃師を近寄らせて「お主が今日連れてきた者は何者か?」と問うた。すると偃師はこう答えた。
 「これこそが、私の造った人形にございます。」
 王が驚いてこれを見てみると、歩き方や振る舞いがまるで本物の人のようであり、工人が人形の顎を上げると、その人形は音階に合った歌を歌いだし、工人が腕を持ち上げると、その人形はリズムに合った踊りを舞い始めた。千変しながらもその動きは工人の指図どおりに動いていた。穆王は人間そっくりだと感心して、周りの者たちと共にその人形の動きに目を奪われていたが、舞が終わりに近づくころ、人形が王を無視して左右の侍女の方を向いて瞬きをして見せたので、王はそれに怒り出し、工人を誅罰せよと命じた。
 偃師は大いに驚いて、すぐに人形をばらばらにして見せると、それは、ニカワと漆、皮革と木材で作られ、白・黒・赤・青の染料で色づけされたものであった。中は肝臓、胆嚢、心臓、肺、脾臓、腎臓、胃、腸、その外側には筋肉や骨、関節、皮膚、歯、毛髪に至るまで全て精巧に作られており、人間に必要なもので足りないものは何一つなかった。それをまた一つにつなぎ合わせると、その人形は再び動き始めた。
 穆王が試しに人形の心臓を取り出してみると、人形は口が利けなくなり、肝臓を取り出すと人形は目が視えなくなり、腎臓を取り出すと人形は歩くことができなくなってしまった。王はそこで改めて感心して、
 「人間の技も造化の巧に匹敵するほどまでになれるものなのか」と言った。
 そこで穆王は、その偃師という工人を側の車に乗せ周の国へと連れて帰った。
 公輸班が雲梯(うんてい)を造り、墨子が鳶の模型を空に飛ばして自らの巧みを誇ったとされるが、彼らの弟子達がこの偃師の話を聞いて師匠に伝えると、二人は二度と技巧の話はせず、たまに定規やコンパスを手にとる程度の日々を送ったという。

参照:中国哲学書電子化計画 列子 湯問
http://ctext.org/liezi/tang-wen/zh

・・・こういうのを読むと、『列子』という書物は寓話の出来がよろしくないなとつくづく思います。人為の巧によって、造化の巧と競う。同じ話がたくさん載っている二冊ですが、『荘子』にはこれは載らない寓話ですね。ま、想像力の評価ならば素晴らしいの一言です(笑)。『列子』という書物がいつ完成したかは分かりませんが、おそらくは漢代から唐代にかけて道家の一門の誰かが書いたお話でしょう。いずれにしても、おそらくは東アジアにおいて最古の「人造人間」の記述です。

参照:Wikipedia 人造人間
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%BA%E9%80%A0%E4%BA%BA%E9%96%93

兵馬俑。
紀元前の兵馬俑の人形の製造工程が、西洋で言うとフォード式の生産ラインの先駆であるとか、そういうこともありますけども、

参照:Wikipedia Terracotta Army
http://en.wikipedia.org/wiki/Terracotta_Army

Assembly line
http://en.wikipedia.org/wiki/Assembly_line
荘子の言っている「機心」というのは、こういった土台の上にあると考える必要はあると思います。

Zhuangzi
曰「鑿木為機、後重前軽、挈水若抽、數如失湯、其名為棉。為圃者忿然作色而笑曰「吾聞之吾師、『有機械者必有機事、有機事者必有機心。機心存於胸中、則純白不備、純白不備、則神生不定。神生不定者、道之所不載也。』吾非不知、羞而不為也。」子貢瞞然慚、俯而不對。』(『荘子』天地篇 第十二)
→子貢「木をくりぬいて、からくりを作るんです。後ろは重く、前は軽く。小さな力で溢れるほどに多くの水を汲み上げられるのです。其の名を「はねつるべ」といいます。」お百姓は、むっとしたあとに、笑って答えた。「私は先生に言われたことがある。『機械がある者には、機械のための仕事ができてしまう。機械のための仕事ができると、機械の働きに捕らわれる心ができてしまう。機械の働きに捕らわれる心ができると、純白の心が失われ、純白の心が失われると、心は安らぎを失ってしまう。心が安定しなくなると、人の道を踏み外してしまう。』私は機械の便利さを知らないのではない。機械に頼って生きようとすることが恥ずかしくて、そうしないだけだ。」子貢は、自らのおせっかいを恥じて、返す言葉を失った。

Zhuangzi
『惠子謂莊子曰「人故無情乎?」莊子曰「然。」惠子曰「人而無情,何以謂之人?」莊子曰「道與之貌、天與之形、惡得不謂之人?」惠子曰「既謂之人,惡得無情?」莊子曰「是非吾所謂情也。吾所謂無情者、言人之不以好惡?傷其身、常因自然而不益生也。」惠子曰「不益生,何以有其身?」莊子曰「道與之貌、天與之形、無以好惡?傷其身。今子外乎子之神、勞乎子之精、倚樹而吟、據槁梧而瞑。天選子之形,子以堅白鳴。」(『荘子』徳充符 第五)
→恵子は荘子に質問した「聖人と言われる人に感情がないというのは本当ですか?」荘子曰く「そうです。」恵子は質問した「感情がないのに、聖人は人と言えるのでしょうか?」荘子曰く「道(tao)は人に姿を与え、天は私に肉体を与えています、それだけでも、人間と呼べないのでしょうか?」恵子「人である以上、感情がないわけにはいかないでしょう?」荘子「それは私のいう感情ではありません。私のいう感情とは善悪好悪の価値に囚われず、常に自然に従い、無理に寿命を延ばしたりしないことです。」「長生きを望まないのに、どうやって生きていくのです。」荘子曰く「道は私に容貌を与え、天は私に肉体を与えました。好悪の情で身体を傷つけることはないでしょう。今、あなたは精神を昂ぶらせて浪費し、木に寄りかかって詩歌を吟じ、座っては物思いにふけりますね。天は、あなたに肉体を与えているが、あなたは議論を以って争いを続けている。」

・・・人の形、人の貌、人の身、人の情、人の精、人の神、人の生、これを使い分けるって凄いと私は思っているわけです。

Zhuangzi
『若有真宰,而特不得其?。可形已信、而不見其形、有情而無形。百骸、九竅、六藏,?而存焉,吾誰與為親?』(斉物論 第二)
→主宰者がいるようだが、はたらきとしてあらわれるだけだ。形として見えない。情があるようで形はない。人間は百の骨、九つの穴、六つの臓器を備えているが、そのどれを偏愛することがあるだろうか?

参照:当ブログ 荘子と『水槽の脳』。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5075

当ブログ インセプションと荘子とボルヘス。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5074

ノーランの「メメント」にも使われた、ビョーク(Bjork)の“All is full of love”という曲の、クリス・カニンガムが作ったPVってのは、
All is full of love。

おそらく、押井守の「イノセンス」と同じで、ハンス・ベルメール影響だと思われるんですが・・・

イノセンス。

参照:Ghost in the Shell: Innocence - Opening
http://www.youtube.com/watch?v=S_1PssU1a9U&feature=related

参照:All is full of love bjork
http://www.youtube.com/watch?v=EjAoBKagWQA
PVの開始後、0:26頃に、テーブルの文字がうっすらと見えます。

日本語で、「その夢は終わらない」と書いてあるんですよ。

・・・アンドロイドってのは、夢をみるのでしょうか?

今日はこの辺で。


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